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青森地方裁判所 昭和50年(ワ)150号 判決 1978年7月20日

原告

神戸忠義

被告

白鳥平内

主文

被告は原告に対し金二四二万六、六四六円及び内金二二二万六、六四六円に対する昭和五〇年六月八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その七を被告の、その余を原告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金三三五万六、五七一円及び内金三一五万六、五七一円に対する昭和五〇年六月八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め

その請求の原因として

一  本件事故の発生

昭和四八年四月二七日午前一一時三〇分頃、青森市古川二丁目九番三号先交差点で赤信号に従つて停車した原告運転の普通乗用自動車後部に訴外登山安彦運転の大型貨物自動車(以下被告車という。)が追突し、この結果原告は外傷性頸部症候群、右第五腰権横突起骨折の傷害を負つた。

二  責任原因

被告は被告車を所有し、自己のため運行の用に供しているものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき本件事故によつて原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

(一)  原告の傷害治療の経過

原告は次のとおり前記傷害の治療を受けた。

1  昭和四八年四月二七日から同月二九日まで奥口外科胃腸科に通院。

2  同月三〇日から昭和四九年三月一日まで三〇六日間、右医院に入院。

3  同月二日から昭和五〇年九月三〇日まで右医院に通院(但し1の通院を含む同医院の治療実日数は四一二日)。

4  同年一〇月二五日から昭和五一年五月三一日まで木村外科胃腸科医院に通院(但し治療実日数一六日)。

(二)  各損害項目

1  休業損害

原告は当時日本生命保険相互会社青森支社に外務員として勤務し、一か月平均一〇万八、六六〇円の給与を得ていた。

原告は本件事故による傷害のため昭和四八年四月二七日から昭和五一年五月三一日まで三七か月間休業を余儀なくされ、この結果前記収入一〇万八、六六〇円の三七か月分合計四〇二万〇、四二〇円の収入を失い、同額の損害を被つた。

他方原告は本件事故による右損害の填補として労働者災害補償保険法に基づく休業補償給付金一九九万二、六二九円の支払を受けたので、これを控除し、二〇二万七、七九一円を請求する。

2  入院雑費

前記入院三〇六日、一日三〇〇円の割合による合計九万一、八〇〇円。

3  通院交通費

前記通院バス代。一日八〇円の割合による一三一日分合計一万〇、四八〇円。

4  慰藉料

本件事故によつて原告が被つた精神的苦痛を慰藉するに足りる金額は一一九万五、五〇〇円。

5  弁護士費用

本訴の提起追行方を原告訴訟代理人弁護士に委任し、その費用、報酬は二〇万円。

(三)  弁済金

原告は、本件事故に基づく損害の填補として、自賠責保険金一二万九、〇〇〇円を、また訴外登山安彦から四万円の支払を受けた。

四  請求

よつて原告は被告に対し、前記三の(二)の1ないし4の各損害金合計三五二万五、五七一円から、前記三の(三)の弁済金を控除した残金三三五万六、五七一円及び内金三一五万六、五七一円(弁護士費用を除いた分)に対する本訴状送達の翌日である昭和五〇年六月八日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ

なお原告は、請求原因三の(三)で自認した弁済金のほかに、本件事故に基づく身体傷害によつて被つた損害の填補として、被告から一一万円(乙第一号証の七、九、一〇の合計金額)の、また自賠責後遺障害保険金五二万円の各支払を受けた、と述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め

答弁として

請求原因一の事実は認める。

同二の事実中被告車が被告の所有である事実は認める。

同三の事実は不知。

と述べた。

理由

一  本件事故の発生

請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

被告車が被告の所有であることは当事者間に争いがない。

そうすると他に特段の事情がない限り、被告は、運行供用者として、自賠法三条に基づき、本件事故によつて原告に生じた身体傷害に起因する損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

(一)  原告の本件傷害治療の経過

成立に争いのない甲第二号証の一、二、同第八号証、その体裁内容等に照らし真正に成立したものと認める同第九号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故による前記傷害治療のため、請求原因三、(一)で主張するとおり入通院した事実を認めることができる。

(二)  各損害項目

1  休業による逸失利益

(1) その体裁、内容等に照らし真正に成立したものと認める甲第七号証、原告本人尋問の結果及び当裁判所の日本生命保険相互会社青森支社に対する調査嘱託の結果(甲第五号証)によると、原告は、本件事故当時、日本生命保険相互会社青森支社に外交員として勤務し、本件事故の前年である昭和四七年における年間所得は一三〇万三、九四二円であり、したがつて当時原告は一か月当り平均一〇万八、六六一円、一日当り平均三、五七二円の収入を得ていたことが認められる。

(2) 次に原告の本件事故による傷害の内容及びその治療の経過は前認定のとおりであるところ、この事実に前記甲第二号証の一、二、成立に争いのない同第一一号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は昭和四九年三月一日奥口外科を退院後も、腰痛は頑固に持続し、また曇とか雨の天気が悪くなる日には後頭痛、頸痛等のむちうち症状も加つて、引続きその治療のため、同医院におよそ三日に一回程度の割合で通院したが、その間昭和五〇年二月一二日付の同医師の診断で、外傷性頸部症候群はほぼ治癒したが、なお腰痛が持続し、特にその症状は軽度の運動または長時間の立位、歩行後に著明に生ずると診断されたこと、そしてその後同年一〇月二五日木村外科にかわつて通院をはじめ、昭和五一年五月三一日治療を打ち切るまで実日数一六日の治療を受けたが、後遺症を残し、自賠責保険査定事務手続において障害別等級一二級一二号「局部に頑固な神経症状を残すもの」と認定されたことが認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく採用し難く、他に右認定をくつがえすに足りる確かな証拠はない。

(3) しかして前記甲第七号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は本件事故当日から欠勤を余儀なくされ、その後職を失い、結局原告主張の期間中全然稼働しなかつたことが認められる。

(4) 右(1)ないし(3)の各認定事実を総合して、原告主張の休業期間における逸失利益について次のように判断する。

ア 原告は、本件事故により、本件事故の日である昭和四八年四月二七日から頸部症候群に限り治癒した旨診断された昭和五〇年二月一二日までの一年九月一七日間、就労不能となつて、前記年収一三〇万三、九四二円、月収一〇万八、六六一円の九か月分九七万七、九四九円及び日収三、五七二円の一七日分六万〇七二四円を合わせた二三四万二、六一五円の得べかりし利益を失い、同額の損害を被つたものと認める。

イ その余の休業期間については、前認定のごとき原告の傷害治療の経過、症状の内容、推移等に照らし、原告に相当程度の労働能力の減退があつたことは認められるが、全部喪失したものと認めるのは相当でない。そこで右減退の程度については、障害別等級九級一〇号「神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に定められた喪失率を斟酌し、かつなお通院治療を要したことを勘案して、その喪失率は約一〇〇分の四〇程度にあたるものと認むべく、したがつてその間の逸失利益は前記年収一三〇万三、九四二円の四〇パーセントにあたる五二万一、五七六円、前記月収一〇万八、六六一円の四〇パーセントにあたる四万三、四六四円の三か月分一三万〇、三九二円及び前記日収三、五七二円の四〇パーセントにあたる一、四二八円の二九日分四万一、四一二円を合わせた六九万三、三八〇円の限度において本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(5) そうすると原告が本件事故に起因して被つた休業による逸失利益の損害は前記(4)のア、イの合計三〇三万五、九九五円であるところ、原告が休業補償として労災保険給付金一九九万二、六二九円の支払を受けたことは原告の自認するところであるから、被告に対し賠償を求め得る右逸失利益の損害は右支払金を控除した残一〇四万三、三六六円である。

2  入院雑費

前認定のとおり、原告は奥口外科に三〇六日間の入院生活を余儀なくされた。ところで右入院中の諸雑費については、これを逐一具体的に認定し得る証拠はないが、しかしこの種の諸雑費が入院によつて普段の生活の場合に比し増加を余儀なくされることは明らかであつて、本件傷害の内容、程度、入院期間等を斟酌すると、右入院中を通じて一日三〇〇円の支給を要したものと認め、その三〇六日分合計九万一、八〇〇円を損害と認める。

3  通院交通費

弁論の全趣旨により原告主張のとおり通院バス代合計一万〇、四八〇円を支出し、同額の損害を被つたものと認める。

4  慰藉料

前認定のとおり、原告は本件事故により右第五腰椎横突起骨折等の傷害を負い、その治療のため三〇六日間に及ぶ入院生活、さらに右入院をはさんで三年余に及ぶ通院(但し治療実日数四二八日)を余儀なくされ、しかも障害別等級一二級一二号該当の後遺症を残したもので、原告が本件事故により甚大な精神的苦痛を被つたことは容易に推認される。

もつとも原告本人尋問の結果によると、原告は昭和五二年五月から稼働していて、後遺症もいまでは殆ど消失し、重い物を持ち上げるようなことをしない限り、日常普段の生活には殆ど支障を及ぼしていないことが認められるが、しかしこの点を考慮に入れても、前認定のような長期間の療養の事実その他本件にあらわれた一切の事情を斟酌すると、原告の精神的苦痛を慰藉するに足りる金額は、原告主張の一一九万五、五〇〇円では低きに過ぎ、一七〇万円をもつて相当と認める。

なお同一の事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上及び精神上の損害賠償を請求する場合における請求権及び訴訟物は一個であるから、右のように原告主張額を超えた慰藉料額を認めても、賠償の総額において原告の申立額を超えない限り、民訴法一八六条に違反しないのはもちろん、精神上の損害における原告の慰藉料額の主張は右損害についての法的評価の陳述というべき性質のものであるから、裁判所はこれに拘束されず、右主張額を超える慰藉料額を認定しても狭義の弁論主義に反することもないと解する。

5  損害の一部填補

(1) 原告が、本件事故による身体傷害に起因して被つた損害の填補として、訴外登山から四万円、被告から計一一万円、自賠法に基づく傷害による損害填補の保険金一二万九、〇〇〇円、以上合計二七万、九、〇〇〇円の支払を受けたことは原告の自認するところであるから、右支払金は原告の身体傷害によつて被つた前記1ないし4の損害金合計二八四万五、六四六円の支払に充当させるべきである。

(2) 右のほかに、原告が自賠法に基づく本件後遺障害による損害填補のための保険金五二万円の支払を受けたこともまた原告の自認するところである。そして右保険金は本件事故によつて生じた身体傷害に起因する後遺障害による逸失利益と慰藉料等とを填補するため給付されたものであるから、右保険金の充当は、前記1ないし4の損害額に本訴において請求していない後遺障害による逸失利益を加算した金額についてなされるべきである。

そこで原告の後遺障害による逸失利益について検討するに、前認定のように原告は自賠責保険損害査定事務手続において障害別等級一二級一二号該当の後遺障害を残したものと認定されたが、右症状固定の日は、他に特段の資料のない本件の場合、医師の治療を打ち切つた翌日である昭和五一年六月一日と認める。他方原告本人尋問の結果によると、原告は昭和五二年五月から株式会社信行商事に外交員として稼働し、現在に至つていることが認められる。以上認定の各事実に原告の年齢等を勘案すると、原告は後遺症固定後前記信行商事に勤務するまでの一年間、後遺障害による労働能力の一部喪失が存続し、かつその喪失率は事故時の前記年収一三〇万三、九四二円のほぼ一割四分にあたる一八万円程度であると推認すべく、したがつて原告は後遺障害により右金一八万円の得べかりし収益を失つたものと認める(なお右逸失利益は本訴口頭弁論終結時既に過去のものに属するからあえて中間利息を控除しない)。

そうすると前記保険金五二万円は前記1ないし4の損害に右逸失利益を加えた損害金合計三〇二万五、六四六円に充当さるべきである。

(3) 以上の方法に従い、前記損害合計額三〇二万五、六四六円から右(1)、(2)の支払金合計七九万九、〇〇〇円を差し引くと、本訴において原告が被告に対し請求し得る損害金は二二二万六、六四六円となる。

6  弁護士費用

原告が原告訴訟代理人弁護士に本訴の提起追行方を委任し、かつ原告主張のように手数料報酬等を支払うことを約したことは弁論の全趣旨により明らかであり、右事実に前記認定額、本訴の経過及び事件の難易等を考慮すると、原告が被告に対し請求し得る相当因果関係のある損害としての弁護士費用は二〇万円をもつて相当と認める。

四  結論

以上の次第により被告は原告に対し前記三の5、6掲記の各損害金合計二四二万六、六四六円及び内金二二二万六、六四六円(弁護士費用を除いた分)に対する本訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年六月八日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告の本訴請求は右金員の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却すべく、民訴法八九条、九二条、一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田辺康次)

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